クリスティアン・ライテラー ~シルヒャーを磨く人~
「ワイン造りは情熱から、品質は確信から」をモットーに、品質本位のシルヒャーとシルヒャー・ゼクトで急成長するクリスティアン・ライテラーが、ヴェストシュタイヤーマーク、ヴィースの実家(ワイン生産者ではなかった)でワインを造り始めたのは、ほんの15歳のとき。以来15年で生産量を50haの規模にまで伸ばし、操業20年を待たず、現在自己所有畑50ha、生産量70ha分とヴェストシュタイヤーマーク最大のワイン生産者となった、努力の人です。人里離れた450mの高地で、17世紀に建てられた豪農の邸宅を美しくメンテナンスした住居兼ワインナリーに住み、全世界を見渡して、最も興味深いロゼワインを造っています。
生産量の9割はブラウアー・ヴィルトバッハー種によるシルヒャーとシルヒャーのスパークリングワイン。1割を占める白には、ヴァイスブルグンダー、ムスカテラー、シュタイラー・キュヴェ(ソーヴィニヨン・ブラン&ヴァイスブルグンダー)、ソーヴィニヨン・ブランがあります。
メインの片方の柱はシルヒャーで、クラシークと単一畑ものの2つのラインナップが存在します。複数畑のブレンドブドウから造るシルヒャー・クラシークは、ハッと息を飲む緊張感に溢れる酸とスキっと爽快な果実味が特徴。一方、ランベアグ、リーマーベアク、エンゲルヴァインガルテン各単一畑ものについては、一定の樹齢に達したブドウを厳しく収量制限し、完熟させてから収穫。天然酵母で自然発酵させることで、各畑ごとに異なるテロワールの違いをワインの味わいに封じ込めることに成功しています。
単一畑ものの中でも、特に40年以上の古木から造るエンゲルヴァインガルテンは、ファイン・ワインとしてのシルヒャーの可能性を拓くワインで、シスト&小石土壌由来の弾けるミネラルと力強いベリーの果実味が特徴。一方、石灰を多く含むローム土壌のリーマーベアクは、円やかで滑らかなベリー風味と透明感のあるミネラルで、両者のテロワールの対比が楽しめます。
もう一方の柱であるシルヒャー・スパークリングは、手軽でチャーミングな果実味のフリッツァンテ、ゼクト(以上タンクによる2次発酵)、R&Rの3種があります。R&Rは、スゥドティロールのゼクトの名手セップ・ライテラー(Sepp Reiterer)氏とのコラボによる、瓶内熟成24か月のフラッグシップ・ゼクト。半分を占めるブラウアー・ヴィルトバッハーのベースワインをクリティアンが提供し、ゼクトとして瓶詰まで手掛けるのはセップ・ライテラー。
畑におけるスタイルに合わせた収量制限と収穫時期の的確な見極め、収穫時とプレス前の厳密な選果とプレス待ち果実の厳格な温度管理、ブドウの状態に合わせた発酵前果皮マセレーションの長さの見極め等、品質の高いシルヒャー造りのための揺るぎない手法をライテラーは確立しています。同じブドウ品種を同じ場所で育てたとしても、彼のような完璧なスタイルのシルヒャーになかなか出会えないのは、ワインになる前となる間の連続したステップが、彼独特のものだからです。10年以上かけて探しもとめてきた彼らしいシルヒャーの表現方法。そして、今でも探求し続けている表現方法。シルヒャーをより美しく研磨するためのステップは、一つとして飛び越えたり、逆にすることはできません。
現在、発酵、熟成はすべてステンレスタンクで行っています。
シルヒャー ~門外不出の幻のワイン~
シルヒャーは、オーストリアのヴェストシュタイヤーマーク(西シュタイヤーマルク)で栽培されるブラウアー・ヴィルトバッハーというブドウ品種から造られたロゼワインの総称で、この地域でしか作られない珍しいロゼワインです。現地の人でもこのブドウ品種を使っていることを知っているのは、プロか愛好家くらいのもので、「シルヒャー」という名前を日本ではあまり聞くことはありません。その大きな理由として、造られたワインのほとんどが地元や国内消費に回っているということや、ブラウアー・ヴィルトバッハーがオーストリアの土着品種で国際的な認知度は非常に低く、そのためオーストリアでも栽培されている量は全体の1%と極めて少ないことがあげられます。そんな、珍しいブドウ品種から造られるシルヒャーですが、世界一はっきりした酸をもつと言われています。地元では、塩気や脂の多い料理と一緒に飲む、庶民的なワインの位置づけだったのですが、最近になって、才能のある造り手によりその概念が覆されています。その一人がライテラー。彼は、このブドウのポテンシャルに気づき、それを最大限表現する方法を探すのに、なんと10年以上もかけました。今でもなお、ブラウアー・ヴィルトバッハーを探し続けています。彼のブドウ対する忍耐と献身は、その後高く評価されることになります。ライテラーはいいます、ブドウのポテンシャル同様に大切なのは、その場所にあるユニークなテロワールとマイクロクライメットの存在であると。アルプス山脈や地中海、西オーストリアのテロワール気候を反映した彼のシルヒャーは、ただアルコール度を高めただけのワインではなく、豊富なミネラル、凛々しい酸、野苺、ラズベリー、オレンジ、スグリ等の独特な香りと鮮明な味わいをもっており、非常に華やかさがあるため、印象に残ります。
シルヒャーは、素晴らしくフルーティーですっきりとした食前酒タイプから、シュペートレーゼ、TBAなどのデザートワイン、更に軽快なフリッツァンテやゼクトなど幅広いレンジを造りあげることが可能です。
ブラウアー・ヴィルトバッハー
ブラウアー・ポルトゥギーザーとブラウフレンキッシュの交配による新種。極めて晩熟で、濃い皮のブドウ品種で南オーストリアのシュタイヤーマルク州原産。ブラウアー・ヴィルトバッハーは、シュタイヤーマルク州の中でもサブリージョンであるヴェストシュタイヤーマルクで主に栽培されています。その他、イタリアのヴェネトで、主にブレンド目的で栽培されています。
ブラウアー・ヴィルトバッハーは、4世紀にはすでにシュタイヤーマークで栽培されていたとされる、おそらくオーストリアで最も古いブドウ品種です。ヴェストシュタイヤーマークでは、少なくとも200年以上「世界一酸の高いロゼ=シルヒャー」にされてきました。シルヒャーのピンク色は、アルコール発酵後の果皮浸漬ではなく、発酵前の低温浸漬によって得られます。スレート、オポック、片麻岩土壌の標高500m近い急斜面で、春の霜やカビの害に冒されやすいため、風のある畑を好みます。そのトレードマークの酸を保持するために、真南向きの畑は多くなく、しかも早めに収穫されます。近年はブッシェンシャンクで供される観光地の酒的イメージに貶められてきましたが、昔ながらのシルヒャーは桁外れに長い熟成能力を持ちます。地方料理の野趣や濃厚な脂肪分、塩分がシルヒャーの極端に高い酸と口の中で出会うと、えもいわれぬ独特のエレガントな旨みに転化するのが、シルヒャー・マジックで、クリームスープにシルヒャーをたっぷり流しこんだピンク色のシルヒャー・スープもお勧めです。飴色のTBAや瓶内二次発酵のゼクトもあり、特に軽快なフリッツッァンテは日本の蒸し暑い夏のアウトドアに格好の飲み物になりそうです。