ゲアハルト・ピットナウアーについて
ワインの中に、シンプルさと正直な感情がある、ゲアハルト・ピットナウアーのスピリット、それは、彼の寛容さと謙虚さからきています。80年代中ごろ、オーストリーのワイン市場はスキャンダルとカオスの真っただ中にいました。甘口ワインの粘度を高めて、より糖度の高い格上ワインに見せかける手口として、ジエチレングリコールがワインに加えられたのです。調査の結果、一部のワイン商が悪事を働いていたことが暴かれるのですが、この事件によって、オーストリアワインの輸出は一夜にして限りなくゼロに落ち込み、まさに壊滅的なダメージを受けます。誰かがワインを取り巻くすべての環境を浄化しなくてはいけないと思っていた頃、ピットナウアーの父に突然の死が訪れます。当時、ピットナウアーは18歳。父から徐々に受け継ぐはずのワイン造りも、自分だけでやっていかなくてはならなくなったのです。彼は言います。「確かに自分の教育のレベルは低いし、ブドウ栽培とワイン造りは関しては、父にほんのさわりを教えてもらっただけ。でも、いつも僕は好奇心旺盛で貪欲に学んできた。友達や勉強仲間の話を聞いたり、海外に行って勉強したり、ワインのテイスティングもしてきた。アーティストになりたいって思っていた頃もあったけれど、今ではそれはワインに対するアプローチになっているんだよ。」
彼の造るワインは、土着品種のブドウを使い、テクニックにこだわりすぎず、新樽を使わない、ピットナウアーらしい‘down to earth’スタイルなのです。
ピットナウアーは、自分が愛飲していたワインの中に、一貫性や共通のテーマがあることに気づくまでは、栽培理論なしでワイン造りを行っていました。もし、彼が自分の飲んでいるワインがビオディナミで造られていることに気づいていたとしたら、彼のワイン造りは、もっと早く変わっていたことでしょう。年月が経ち、ビオディナミのことを知ったピットナウアーは、妻のブリジットとともに、15ha(半分は自分のもとで半分は借りた土地)を生きたワインを造るために、独自のオーガニック精神で手入れをはじめます。堆肥を与えるところから収穫までのすべての作業はマニュアル通りに行われ、カレンダーはなく、彼をあせらせるものは何もない。ブドウの完璧な成熟がもたらす味わい。きれいなブドウを選んで、ヴィンテージのコンディションに応えたワイン造りをセラーで行っています。空気式圧搾機、温度調節付きのスチールタンク、そしてポンプなど最新技術。彼の造るワインは、ピュアでフレッシュな果実味が特徴です。ピットナウアーは、それぞれのブドウ品種がもつ、わくわくするような、ユニークな声やテロワールがはっきりと聴こえてきそうなワインを造っています。
●ピットナウアーのこだわり●
2006年よりピットナウアーは、化学合成物の使用をやめました。使っているのは、硫黄と銅、スプレーするのは、500番(牛糞のプレパレーション)と501番(水晶のプレパレーション)だけ。水晶はシリカを含み、ブドウ自体や葉など地上に出ているところに作用し、太陽のエネルギとの結びつきを強めます。500番も501番はビオディナミ農法で使われるプレパレーションです。これらを4輪バイクとトラクターでスプレーするのですが、これは重量が少ないため土壌に対する影響が少ないためです。醸造過程では、発酵はベーシックなクラスまで問題が起こらない限り自然酵母を使用し、酸化防止剤(SO2)は必要分のみ使います。果実の自然な持ち味を生かすために、新樽使用率をかなり減らしています。(トップキュヴェでも100%旧樽。最高新樽1割以下)
●ピットナウアーが大切にしていること●
ピットナウアーがワイン造りをする上で大切にしていることは、ブドウの個性とテロワールをきちんと表現することです。ブドウにしても、無理やり国際的に有名なブドウ品種を植えるのではなく、その土地に合ったブドウを植えることが大事であると考えるのです。そしてもし、単一畑で栽培されるブドウであれば、その畑のキャラクターやミクロクリマを表現することも彼にとっては重要です。ピットナウアーは、ブドウ栽培において、オーガニックの中でも特にビオディナミ農法を取り入れています。ビオディナミ農法を取り入れる理由について、すべての環境に対する利益だけを考えるのではなくそれがあってもいいけれど、品質のよいブドウを造るために行きついたやり方だったと語ります。ビオディナミ農法をすることで、ブドウをより丁寧に扱うようになるし、より多くの注意を向けるようになる、そして結果的に品質のよいブドウができるようになる。そして、一番大切なことは、この栽培方法が、ブドウ畑やセラーで働く人間の自覚を促してくれる点にあるとピットナウアーは考えています。また、このビオディナミ農法に移行するにあたり、オーストリアで一時一世を風靡した、ビオディナロジックのコンサルタント、アンドリュー・ローランドを師事していました。2006年ヴィンテージより自然発酵に切り替え、酵素や酵母、タンニンやいかなる清澄剤も使いません。部分的にステンレススチールタンクで発酵させ、一部は木樽で発酵させます。ピットナウアーは、ブドウの皮が持つすべての成分を取り出すことに興味はなく、彼の目指す「エレガントで飲み疲れしないワイン」の中に欲しいのは、優しいタンニンであり、抽出しすぎの荒々しいタンニンではないのです。熟成も500Lの古樽を使用しています。熟成期間は5か月から33カ月までワインのスタイルとクオリティにより様々。硫黄はできるだけ使わないようにし、清澄もしません。瓶詰めする前に、ざっくりとろ過をするようにしています。